一票の格差

本年は、任期満了に伴う参議院議員通常選挙の実施が見込まれています。多少の改正はありましたが、現在も「一票の格差」は是正されないままです。(約3倍の格差のある状態)

 

「一票の格差」とは、選挙で有権者が投じる票の重みの不平等を意味します。

 

国民主権のもと、三権分立に関わる問題ですので、そこから話を始めたいと思います。


三権分立とは

「三権」とは、憲法によって定められた、内閣の行政権、国会の立法権、裁判所の司法権の3つの権力を意味します。

難しい概念が出てきましたので、ここでは3階建ての建物を想像してください。

まず、1階は「行政権」、2階は「立法権」、3階は国の根本規範である「憲法」の部屋があると仮定します。

「司法権」は、上位の階の指示に下位の階が違反していないか、逐次チェックをしている、というイメージです。

 

私たち一般人が生活している世界は、「1階」です。警察、消防、役所など、日常生活をするうえで接点があるのは行政権です。

 

「2階」は、法律のフロアーです。法律は誰にでも平等に適用されるものです。ここでは、主体が一般化、客体が抽象化されます。法律によって利益又は不利益を受ける可能性があるものの、それが実際「1階」の自分たちの具体的な生活にどのような影響があるか、この時点ではわかりません。

従って、法律は、私たち一人一人、あらゆる立場に立って物事を考え、理性的な判断をします。もちろん、少数派の意見も取り入れながら、議論を尽くします。しかし、最終的に意見が分かれてしまった場合は、代表者による多数決によって「2階」の決定が行われます。

 

「3階」は、憲法のフロアーです。憲法は、国の根本規範(国民主権、平和主義、基本的人権の尊重)などを定めています。

 


問題の所在

憲法は、形だけの一人一票を保障しているだけではなく、当然一人の一票の政治に与える影響力そのものが平等であることも保障しています(「投票価値の平等」)。

一方で、憲法は、国民の意思をどのように政治に反映させるべきか、その具体的な選挙制度については国会に委任しています。

 

問題となるのは、この委任の範囲を超えた格差となっているのか、という点です。結局、憲法の解釈として、投票価値の平等をどのように考えるべきか、という問題に帰着します。


民主制の過程

「2階」で決まった法律は、「1階」の自分たちに有利にも不利にも影響する可能性があります。

そのような観点から、国民は代表者を選ぶことで、「2階」に参加します。

このように、平等に参加する権利が与えられているからこそ、国民は「2階」での決定を『自分たちの決定』として、受け入れるのです。

しかし、「一票の格差」は、この前提を崩してしまいます。

 

さらに、「一票の格差」は、国民の多数意思を代表者の多数意思に反映させるという、正常な民主制の過程を歪めてしまいます。言い換えると、「1階」では、国民の多数意思ではなく、代表者の多数意思に従わなくてはならなくなるのです。


一度この歪みが生じた場合、代表者が作った選挙制度もこの歪みを反映したものになってしまっています。

 

代表者の多数意思が設計した選挙制度は、その代表者の多数意思が変えようとしない限り、国民の多数意思でもっても変えることはできないのです。

 

民主制の過程を回復させるためには、憲法の番人としての最高裁判所の役割が不可欠なのです。